君の日々に、そっと触れたい。
Chapter1
終わりの始まり
人生最初の記憶は、目眩がするような香水と、お酒の匂い。
華奢な肩からずり落ちた、気だるげな黒いキャミソール。うつ伏せの黒髪。
あの人は多分、私のママ。
顔はあんまり覚えてない。だって、こっちを向いてくれなかったから。
逆算するとあの頃私はまだたったので、5歳で、不確かで朧けな記憶だけれど。
確か私にはパパが2人いて、前のパパがどうしたのかは知らないけれど、新しい方のパパとママの間には、弟がいた。
眠ってばかりの小さな似てない弟。
ママは弟を溺愛していた。
対称的に私を酷く嫌っていた。
ママは私が、前のパパに顔が似ているのが気に食わなかったんだと思う。
「またあの人に似てきたわ」
と、ママは酷く顔を顰め、極力私の顔を見ないようにしていた。
ママの目には、いつも弟しか映っていない。
だから私は弟が、大嫌いだった。
だからある日、言ってやったんだ。
「弟なんかいらない、
死んじゃえばいいんだ」
本気でそう思っていた。
その時ママがどんな顔をしたかは、やっぱりよく覚えてないけど。
翌朝、目が覚めると家には誰も居なかった。
ママも、弟も、パパも。
誰も居なかった。
もう二度と、帰っては来なかった。