副社長の一目惚れフィアンセ
12.やさしい奇跡
3日後————

夏川さんが足早に私の元へやって来た。

とうとう来たな、と私は気合を入れて背筋を伸ばす。

「明里さん、社長がお呼びです」

「…はい」

夏川さんの綺麗な目の下は黒ずんでクマになっている。

真司さんが急にいなくなったことで、秘書課はバタバタしていて大変なんだろう。

もちろん、彼女たちが本当の事情を知る由もないだろうけど。


社長室の中にはすでにナオの姿があって、私はナオの隣に座った。

社長は大きく息を吐き、少し暗い表情で話し始める。

「…直斗。申し訳ないが、真司があんな状態になった今、やはり次期社長はお前しかいない」

社長が私をチラッと見て目をそらし、それだけで社長が何を考えているのか…私に何を言おうとしているのかはわかってしまう。

それはきっと、ナオも同じなんだろう。

本来なら、私がいないところでこういう話が進んでもおかしくないのだ。

社長は忙しくて時間もないだろうに、この場に私を呼んでくれた。

それだけでも社長の誠意が伝わってくる。

「…明里さんには申し訳ないと思っている。
だが、会社がこんな状況だ。
やはり婚約は白紙に戻し、私の選んだ女性と結婚してほしい」




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