副社長の一目惚れフィアンセ
epilogue
ナオの政略結婚の話はなくなり、私はナオのそばにい続けられることになった。

お姉ちゃんが遺してくれたお金は、庶民にとっては大きな金額ではあるけど、会社のピンチを救えるほどの大金じゃない。

お父さんの言う通り、政略結婚をしたほうがずっとメリットは大きいに決まっている。

だけどお姉ちゃんとお父さんの思いは、社長の心をも動かしたのだ。

そしてお姉ちゃんのお金は、これから家族が増えた時のためにとっておくように、と社長が言ってくれた。



婚約から1年の時が流れた。


「明里、明日の式にはお母さん来られるんだろう?」

仕事を早く切り上げて帰ってきたナオは、上着を脱ぎながら私に問いかける。

「うん。叔父さんが連れてきてくれるって言ってた」

ナオは「そうか」と嬉しそうに微笑んだ。

お母さんは精神的なバランスを取り戻すため、しばらく入院していた。

アルコールのせいで肝臓にも疾患を抱えていたらしい。

時間をかけて少しずつ自分を取り戻していったのだと、叔父さんから話を聞いていた。

『詩織』じゃなくて『明里』の話をするようになったのだと。

『明里の結婚式が楽しみだ』と。

本当は、肝臓の手術をしてあまり無理をできる状態じゃないんだそうだ。

だけど、お母さんがどうしても行きたいというから、叔父さんが車椅子で連れてくると言っていた。

お母さんに会うのは久しぶりだ。

ドキドキするけど、喜んでくれるだろうか。

『明里』と呼んで祝福してくれるだろうか。



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