副社長の一目惚れフィアンセ
1.フィアンセ
20階建ての社屋は外壁がガラス張りになっていて、空の色が映って青く光って見える。

晴れの日に見るこのビルはとてもきれいで、底辺を這う朝のテンションを引っ張り上げてくれる。

入口の壁面には、三日月とふたつの星をかたどったゴールドのロゴマーク。

ここは製薬会社。
『天星製薬(あまほしせいやく)』

薬品だけでなく子供向けのおやつや栄養食品も取り扱っている、日本人には馴染み深い有名企業だ。

どうしてなんの取り柄もない私がここに入れたのかは謎だけど、採用が決まった時、母は今までにないくらい喜んでくれた。

あまり母に褒められた記憶のない私にとって、ここの社員でいることは、劣等感で埋め尽くされた私の唯一のプライドだ。

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