6月30日。まさにギリギリの日にちでナオの33歳の誕生日に、婚約が発表された。

と言っても、結婚とは違ってまだ婚約の段階だ。

こういうものは社員への周知よりも、取引先や親交のある人たちへの報告と挨拶のほうが大事らしい。

だから社員には社内広報で回るだけ。

相手がどこかのご令嬢なら、たいした噂にもならないのだろう。

会社の跡取りがどこかのお金持ちの令嬢と結婚する…つまりは政略結婚。

それは社員にとっては決しておかしな話ではなく、むしろ当然の流れだとさえ思う。

…だけど、相手は総務部にいる冴えない一般事務社員の私だ。

広報を見ているらしい人たちのひそひそと話す声が聞こえ、痛いくらいに視線がささる。

周りが驚くのも当然のことだ。
典型的なシンデレラストーリーが、自分の課内の平凡な女性に起こっているんだから。

中には直接私本人に聞いてくるような好奇心たっぷりの女性もいて、

「広報の話、本当なの?なんで副社長と…」

なぜだか楽しそうな彼女たちに、私はニッコリ笑って答える。

「ええ。ご縁があったので」

それ以上突っ込んで来ようとする人には笑ってごまかす。

『一目惚れされたんです』と言って信じる人がいるわけもないだろうから。

私だって、正直まだ信じられずにいるのだ。

広報が回ってしまったことで余計に、私は本当にあの人と婚約したんだっけ?なんて思って不安になってしまう。

それでも、薬指についている婚約指輪がなんとなくくすぐったくて、これが現実だと知らせてくれる。



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