副社長の一目惚れフィアンセ
「明里、婚約者に副社長呼ばわりはないだろう?」

宝石店でのことを言っているんだというのはすぐにわかったけど、婚約者だからって突然名前呼ばわりはおこがましいと思ったのだ。

「じゃあ…直斗さん…?」

私が恐る恐る問いかけると、彼は迷ったように間をおく。

「…ナオって呼んで」

そして、少し緊張した様子でそう言った。


『ナオ』


なんでだろう。また一瞬既視感のようなものが頭の中を走った気がした。

だけど、深く考える前に、彼は続ける。

「もちろん人前では直斗さんでいい。でも2人の時はそう呼んでほしい」

「…ナオ…」

小さく呟いたら、なぜかナオの目の端が少し光った気がした。

気のせいだろうか。一瞬泣いているのかと思ってしまった。

だけど、それを確認する前に伏目がちにナオは微笑んだ。



< 41 / 204 >

この作品をシェア

pagetop