冷酷な騎士団長が手放してくれません
決闘


秋が深まり、庭園の秋桜が薄紅色の花を咲かせはじめた。空は穏やかな水色で、凪ぐ風には冬の気配を感じる。



ニールは今、応接室の窓から庭を眺めていた。庭では、エメラルドグリーンのドレスに身を包んだソフィアが秋桜を摘んでいる。オフホワイトの大判のショールを羽織り、腰まで伸びた蜂蜜色の髪は斜めに編み込まれていた。


蔵書を多く保管しているこの部屋は、日の光で本が傷まないように、最小限のこの通気窓しかない。細長い上に外から見ると分かりにくい箇所にあるので、ソフィアからはニールの姿は見えないだろう。



白魚のように繊細な指先が、花を一つ一つ見繕いつんでいく様を、ニールは物憂げに眺めていた。


長い睫毛が瞬き、乳白色の肌に陰を落とす。潤いを帯びた桃色の唇は、薄く閉じられていた。





ニールは、今でははっきりと自覚していた。


ソフィアを、愛している。


彼女に翻弄されるたび、その想いは狂おしいまでに膨らんでいく。


だが、ソフィアはいまだニールに心を開いていない。


そのことが、たまらなくもどかしい。






応接室のドアが、コンコンとノックされた。


「殿下。お客様です」


アダムの声だ。


「お通ししろ」


窓の向こうのソフィアに視線を馳せたまま答えれば、間もなくして深緑のマントを羽織ったアダムが姿を現した。アダムは、そのまま入り口の傍に控える。


「殿下、お久しぶりでございます」


続いて能天気な声とともに姿を現したのは、ソフィアの兄のライアンだった。栗色の髪に、愛嬌のある瞳でにこにこと微笑んでいる。妹のような奥ゆかしさはないが、羨ましいほどの開放的な空気が魅力の男だ。


「これは、ライアン殿。よくぞお越しくださいました」


ニールが椅子をすすめれば、ライアンは遠慮なく腰かけた。


「いやあ、いつ見てももの凄い蔵書ですね。この部屋を見ただけで、殿下が知識豊かな人物だということがうかがえる」


屈託のない笑みを浮かべながら、部屋を見渡すライアン。




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