冷酷な騎士団長が手放してくれません
嵐の夜の出来事

騎士達の奮闘もあり、怪我人は最小限に抑えられ武装集団の一派も捕らえることが出来た。


だが、親善試合でのテロ事件は、平和に溺れていたカダール公国を大きく揺るがした。


そして、ついにロイセン王国とハイデル公国は戦争に突入することとなる。






ニールの身の回りはよりいっそう慌ただしくなり、再び城を開けることが多くなった。


いくら戦争に突入したとはいえ、リルべはロイセン王国の端にある。激しい戦火に巻き込まれることはないとは思うものの、ソフィアは生家のことが気になって仕方がなかった。





その日は、まるで冬のように寒い日だった。空には鈍色の雲が立ち込め、朝から激しく雨が降り続いていた。


夕刻を過ぎる頃には雨は嵐に変わり、時折雷鳴が轟くようになった。


ソフィアは、自室の窓から雨風に飲み込まれる庭を一人眺めていた。突風に花々が激しく揺れ、木々が悲鳴のようなざわめきを繰り返している。


闇に覆われた空には神の裁きのような稲妻が走り、地上にゴロゴロと不穏な唸りを響かせていた。








どうしようもなく、不吉な予感がしていた。


気持ちを落ち着かせるように、右手の甲の傷痕をなぞる。


すると、コンコンとドアをノックする音がした。


「ソフィア様、失礼いたします」


入室を許可すると、ニールの片腕であるアダムが姿を現す。


「ソフィア様。たった今、アンザム辺境伯が危篤との知らせが入りました」








「………え?」


ソフィアの目前が、真っ白になる。


体が抜け殻のようになって、しばらくの間何も考えることが出来なくなった。

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