冷酷な騎士団長が手放してくれません
重なる心

ソフィアの部屋をニールが訪ねて来たのは、アダムの事件が起こってから数日が過ぎた頃のことだった。


「少し、庭でも歩かないか」


ドアを開けるなり、微笑を浮かべてニールは言った。椅子に座り読書中だったソフィアは、「はい」と答えてニールにつき従う。





ニールに連れられ、ソフィアは回廊から中庭へと続く階段を降り、バラ園に向かった。枝葉ばかりの冬のバラ園は、どこかもの悲しい。ニールに促されるままベンチに腰掛けたソフィアは、かつてこの場所にニールと共に来たことを思い出す。


あれは、初夏の文学サロンの時だった。あの時、このバラ園は色とりどりのバラで埋め尽くされていた。ニールに婚約を申し込まれ、動揺した視界の片隅に、黄色いバラの花が鮮やかに咲きほこっていたのを覚えている。


アダムの事件以降、ソフィアはニールとじっくり話をしていない。だから、おそらくアダムのことについてを言われるのだろうと思っていた。アダムが実はハイデル公国の手先だったことは、すでに侍女から聞いている。


だが、ベンチに座り鈍色の冬の空を仰ぎ見たニールは、思いもかけないことを口にした。


「君との婚約を、解消しようと思っている」







ソフィアの頭の中が、真っ白になる。ソフィアに話をする隙を与えずに、ニールは続けた。


「ロイセン王国とハイデル公国の戦況は深まるばかりだ。我が国でも、祝い事などやっている場合ではない」


人生を変える大きな決断を、ニールは単調に言ってのけた。感情のこもっていない言葉だけが、上滑りしているようにも聞こえる。


「それに」


そこで、ニールは一端息を継いだ。


「君は、俺の相手ではないと判断したからだ」
< 166 / 191 >

この作品をシェア

pagetop