私には両親がいない。

それは蓮自身が『亡き両親に代わり…』と言っていたことから明らかなのに、『両親公認の…』だなんて。

言われても確認のしようがないことを分かっていないのだろうか。

しかも3歳までの記憶がどうとかって。

両親が亡くなったのはちょうどその頃だった。


「幼児期健忘、か…」


両親の記憶がないのはそのせいだってことはなんとなく知っていたけど、痛いところを突いてくれたものだ。

あのあと、蓮の秘書の方が呼びに来てくれて彼を連れ去ってくれたから良かったものの、気分のいい話ではなかった。


「栞。またぼーっとしてるけど、大丈夫?」


喫茶店から戻り、歯を磨きながら両親のことを考えていた私に寧々が声を掛けてきた。


「牧田くんと話したんでしょう?」
「え?牧田くん…?あ、そういえば牧田くん、どうしたんだろう」


一緒に店を出たような気もするけど、そうでない気もする。

キョロキョロと辺りを見回すも、女子トイレには当然牧田くんはいなくて…。


「今日の栞、本当に変よ?どうしたの?牧田くん、言ったんじゃないの?」
「なにを?」


聞き返すと寧々は言葉に詰まった。

そのことに違和感を感じたけど、眉根を寄せ心配そうに私を見る寧々の顔を鏡越しに見たらすべてを話したくなった。

だから仕事が終わったあと、寧々を喫茶店に誘って昼間の話しを、両親が遊園地に行った帰りのバスで事故に遭って亡くなったことを交えて話すことにした。