獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
第二章 天に映ゆる金糸雀色

婚約者として相手先の領地に赴く時に課せられるのは、普通であればその土地の歴史やしきたりの勉強、もしくは新しい家人との交流会が主だ。


ましてや小国なりにも王国に嫁ぐからには、勉強やお稽古ごとがみっちり待っているものだと思っていた。


だが翌日からアメリに課せられたのは、侍女たちがしていることと何ら変わりのない仕事ばかりだった。


部屋の掃除に、庭の手入れ。時には、厩で馬の世話までさせられる。


与えられる衣服も動きやすくて地味なものばかりで、色とりどりの煌びやかなドレスとは無縁の生活だった。





「申し訳ございません。これも、全て殿下のご命令でして……」


三日目の昼下がり。アメリが王の間へと続く螺旋階段の手すりをせっせと雑巾がけしていると、通りかかったレイモンド司祭が心底申し訳なさそうに頭を下げて来た。


「謝らないでください。私、掃除は好きですから」


アメリは、レイモンド司祭の杞憂を晴らそうとにっこり微笑む。


ウィシュタット家でも侍女まがいの家事をやらされていたので、掃除には馴れている。小言を言ってくる義母や姉たちがいない分、のびのびと出来るぐらいだ。


そんなアメリを見て、レイモンド司祭は感心したように「これは、頼もしいですな」と目を細めた。


「馴れない雑用仕事に音を上げ、逃げ出した令嬢も二人いましたから。ここまで耐えたのは、あなたが初めてです」






その時だった。足音がして、階段から人影が降りてくる。


銀色の鎧兜を被った長身の男が、アメリを見下ろしていた。


慌てて頭を垂れるレイモンド司祭に習って、アメリもスカートの裾をつまんで礼をする。


それは、三日ぶりに見るカイル王太子だった。



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