獣な次期国王はウブな新妻を溺愛する
第三章 不器用な純愛


翌日、目が覚めるなり、後悔の念がさざ波のようにアメリの胸に押し寄せた。


小窓から入り込む朝日に照らされた部屋で、ベッドに横たわったまま、アメリはわなわなと震える。


(どうして昨日の私は、あのようなことが出来たのかしら。殿下は、きっともの凄くお怒りだわ……)


鎧兜を取って欲しい、と懇願したことは後悔していない。けれども、その後の行動――咄嗟にカイルの頭を抱きしめてしまったことは、思い出しただけで生きた心地がしなくなる。


昨日はあれからカイルに会うことはなかったが、今日はどこかですれ違うかもしれない。その時、あの氷の刃のような王太子は、アメリに何を言うだろう?   


城を出て行けと命ずるか、もしくはもっとひどい制裁が待ち受けているかもしれない。


恐怖心から、立ち眩みすらした。けれども、逃げ出すわけにはいかない。


アメリはどうにかベッドから身を起こすと、いつものシンプルなモスグリーンのドレスに着替えた。掃除や庭仕事にすぐ取りかかれるように、白いエプロンも腰に巻く。背中までの黒髪は、動きやすいように後頭部で丸く纏めた。






居館を歩み、向かったのは王族専用の食堂だった。


侍女のような扱いをされてはいるが、アメリは一応カイルの婚約者という立場なので、食事はここでするように言われている。


といっても、仕事の都合上三度の食事は早めに摂るため、王やカイルにここで会ったことはない。朱色のテーブルクロスを掛けた金の燭台が等間隔に並ぶ長テーブルで、一人ぽつんと食べるだけだ。


「いただきます」


アメリが入るなり用意された朝食に、今日も一人で手をつける。今朝のメニューは、白パンに魚介のスープだ。


食事を運ぶと給仕係はすぐにいなくなってしまうので、正真正銘の一人きりだった。ロイセン王国のシンボルである獅子の紋章の壁掛け布と向かい合うようにして、アメリはせっせと食事を口に運ぶ。


(相変わらず、孤独だわ)


ウィシュタット家でも基本一人で食事を摂っていたので、馴れてはいる。けれども、この食堂はウィシュタット家のものとは比べ物にならないほど広い。そのせいか、アメリは寂しく感じてしまうのだ。
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