アンニュイな彼
2



桜の木の紅葉がキレイ。
通い慣れた通学路は、もうすぐ落ち葉で敷き詰められるだろう。

放課後の時間に合わせて来たので、帰宅する制服姿の高校生たち何人かとすれ違った。
これから友達と流行りのカフェに行ったり、カラオケに行ったり、有意義な放課後の時間を満喫するのかなぁ……。

笑顔で声を弾ませて、駅の方向に歩いて行く高校生たちの姿を見て、私はほんの二、三年前の自分を懐かしく思った。

私の放課後は、特別な日課があった。
それは、先生を探すこと。

美術部の顧問である先生は大抵、放課後の部活の時間は美術室か準備室にいるんだけど、ときどき非常階段の昇降口のとこで昼寝していた。
サボっていたのだ。

そこはとても日当たりが良く、校舎の中からも外からも死角になる、絶好のサボりポイントだった。

まだ入学したばかりで、校舎の地理に慣れていなかった私は、迷ってたまたま見つけた。木漏れ日を浴びて、髪の毛をキラキラさせ、うとうとと無防備に眠る先生を。


『えっと、確か……美術の、笹原先生、だっけ』


最初はときどき、離れた場所から眺めては、あー今日もサボってるなー、教師のくせに素行が悪いのかなぁ、って思ってただけなんだけど、美術の授業を受け始めたらだんだんと詳しい生態が気になってきた。

教室の、南向きの大きな窓から入ってくる高い位置からの太陽の光は、いつも気だるげに教卓の椅子に座る先生の透き通るような肌をより白く見せ、神々しく輝いてるようで、幻想的で不思議だった。

ほかの教師はタイプが違う。
ただ黙って、生徒の製作を見守って、ときどき質問があればアドバイスをする。
自由な授業は楽しかった。

低いけどよく通る声とか、一拍間を空けてゆっくり話す口調とか。
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