愛は、つらぬく主義につき。
3-1
 ついこないだまで。掛け布団も毛布と二枚重ねだったのが、季節の進み具合はあっという間。 
 桜も入学式シーズンには間に合わずに散っちゃって。今はハナミズキやツツジが白や紅に、花盛りを迎えてる。
 まだ半分、微睡みから醒めてなくて。目は開かないけど、カーテンの向こう側は陽射しで眩しそうな、朝の気配を感じてた。

 寝返りを打つと、すべすべした肌触りの羽根布団カバーが剥き出しの肩を滑った。
 おでこと鼻が何も着てない遊佐の背中に当たって、そのまま後ろからあたしはやんわりと腕を回す。
 寝起きが悪いから、これぐらいじゃ遊佐は全く起きやしない。
 さらっとした素肌に頬を寄せて、あたしの中いっぱいに吸い込む。愛しい男を。


 あたしは週休二日制で土日祝日がお休み。
 何も無ければ金曜の夜から哲っちゃん家にお邪魔して、日曜の朝にマンションに帰る。丸一日、一緒にいられるのは土曜だけ。でも掃除も洗濯も、やるべきコトはおろそかにしたくない。自分ルールだ。

 遊佐は普段は本部の事務所で、つまりウチの実家で、パソコン使って色々やってるみたい。裏帳簿の極秘管理とか裏取引のナンかとか、聴いてもしょうがないから詳しくは知らないケド。
 身体を機敏に動かす仕事は無理でも能力はある。重要な仕事を任されて、ちゃんと必要とされてる。お荷物みたいに言われる筋合いなんか・・・ない。


 瞑っていた目を開けると。黒の紋様がぼんやり写り込む。遊佐の刺青。
 お父さんとか哲っちゃんの時代は、やっぱり彫り物は龍だの牡丹だの迫力があって艶やか。今時の若者はタトゥー感覚だから幾何学模様みたいのだったり。
 背中半分にうねった模様と。腰の辺りに、花びらを散らしかけた赤い薔薇。理由を訊いても、『なんとなく?』って軽い返事が返っただけだったよねぇ。
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