愛は、つらぬく主義につき。
3-2
「なんで遊佐は素直にウン、て言わないかなぁっ?!」

「そうねぇ・・・まあ男にはイロイロあんのよ」

「あたしが結婚したいって言ってんだから,いーじゃない、それで!」

「でもねぇチヨちゃん。男だったら、やっぱり逆プロポーズは無いって思っちゃわない?」  

「そんなコト言ったってぇ」

 カウンター席でママ相手に、あたしが愚痴を言いまくってるここは。BAR『亞莉栖』(アリス)。
 ママはユキちゃんって言って、見た目はさっぱり顔のフツーの男性。シャツにジーンズとか、身だしなみも普通にメンズファッションだったりする。
話せばオネエってだけで年齢は不詳。一ツ橋組の情報屋さんでもあって、哲っちゃんの子飼いらしい。

 遊佐や榊と来ることもあれば、こうやって一人で来て、話し相手になってもらったり。頼りになるオネエさんで、付き合いはもう何年になるかな。

「本家の一人娘を貰うってなったら、そりゃ若頭の息子と言えども結構な覚悟がいるって思うわよ?」

 ユキちゃんは優しく諭すように、でも言うコトは的を射てて。いつの間にか慰められて励まされてる。いつも・・・いつも。

「焦っちゃだめよ、チヨちゃん。機が熟す時ってね、必ず来るんだから」

「・・・そっかなぁ・・・?」

 やるせない溜息が漏れる。

「大丈夫。だってマコトちゃん、チヨちゃん一筋じゃない」

 カウンターを挟んでグラスを拭きながら、ユキちゃんが片目を瞑って悪戯っぽく笑う。

「・・・分かってるから余計にさ」

 もどかしさが苦しくなるコトがある。

「アタシはいつだってチヨちゃんの味方だからね?」

「ユキちゃんに言われると、ガンバれる気がするーっ」

 よし。自分で自分の背中を押してみた。

「その意気よ。カシスオレンジおかわりする?」

「うん。ありがと、ユキちゃん!」

 やっと笑顔も出たあたしに、どういたしまして、と艶やかな微笑みが返った。

 
 ちなみに。チヨちゃんていうのはユキちゃんが付けたあだ名で。
 ミヤコ蝶々(ちょうちょう)って女優さんだったかな、往生しちゃった人がいてね。ミヤコ繋がりで、『蝶々ちゃん』が詰まって『チヨちゃん』。ユキちゃんのセンスはいーのか悪いのか、ちょっと良くわからない。
< 28 / 150 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop