毒舌社長は甘い秘密を隠す
毒舌社長は甘い秘密を隠す

 九月になり、上期の決算月を迎えた。
 各部の部長が集められ、営業会議が行われるとあって、最近の社内は慌ただしい。

 私はというと、社長の思いがけない告白を受けてからというもの、一層意識せずにはいられなくなった。
 それというのも……。


「沢村さん、おはよう」
「お、おはようございます」

 この二年、出社してから社長室に直行していたはずの彼が、秘書室に顔を出して私にだけ声をかけていくようになった。

 それだけじゃない。
 社にいる時の彼は、近しい社員の間では冷たい印象で通っているのに、私だけランチに積極的に誘われたり、やたら微笑みを見せるようになったのだ。


「社長、最近どうしちゃったの?」
「さぁ……どうされたんでしょうね」
「自分の秘書をかわいがるのは分からないでもないけど、あからさますぎるわよ」
「そうですね。なにがあったのかわかりませんが」

 留美さんの問いかけに淡々と答えるも、内心はハラハラだ。

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