エリート上司の甘く危険な独占欲
第六章 とろけて混じり合う
 華奈はオフィスを出て、重い足取りでエレベーターに乗った。今までがんばってきたことが評価されたんじゃないんだ、という思いが、気持ちまで重くする。

(別に出世が目当てで仕事をしてきたわけじゃないけど……それでも、昇進が伝えられたときは、がんばりが報われたんだって、すごく嬉しかったのに)

 駅に着いたものの、まっすぐ帰る気になれなかった。現実逃避したくて、逆方向の電車に乗る。そのまま電車に揺られているうちに、やがて柊一郎に振られたバーのある駅に到着した。華奈は電車を降りて、商業施設の前の通りを歩き、落ち着いたレンガ壁のバーのドアを開けた。その瞬間、颯真の車の中で聞いた曲が流れてきて、華奈はふぅっと息を吐いた。

「いらっしゃいませ。何名さまですか?」

 入り口近くのテーブルを片付けていたバーテンダーが声をかけた。

「一人です」
「お好きなお席にどうぞ」

 華奈はバーテンダーにうなずいてカウンターに向かった。カウンターの左端の席に座ろうとしたとき、視線を感じた。その方向を見ると、なんと颯真がこの前と同じ、右端の席に座っている。

「華奈」

 隣に座るよう合図されて、華奈は彼に近づいた。
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