「和花ちゃん。今日は、こっちの男子トイレの掃除をやってもらってもいいかな?」
「はい、了解ですっ!」
秘書課に配属となったのに、清掃業務するようになってから二週間。ひとりではなく清掃業者のおじさんたちと一緒の掃除は、毎日楽しくやっている。初めての顔合わせのときは緊張したけれど「こんな若い子と一緒なんて天国みたいだ」と大歓迎されて、今では我が子のように可愛がってもらっていた。
「平野さん、今日も一緒ですか?」
私とペアを組んでいるのは、定年退職後に清掃業者へと再就職した六十三歳の平野さん。掃除が趣味という平野さんとは、すぐに意気投合。お父さん的存在で、仕事を細かく教えてくれている。
「和花ちゃん、ごめんよ。今日はひとり休みだから、一緒にはできないんだ。ここ使う人少ないトイレだし、そんなに汚れてないからひとりで大丈夫?」
「そうなんですか。はい、ひとりで大丈夫です。なにせ親方が平野さんですからね」
「またまた、和花ちゃんは口が上手いなぁ。今度好きなもの奢るよ」
やったっ! これだから平野さん大好き。
でも平野さんのことを親方と思っていることはホント。男性なのに私より気が利いて、掃除の手も早い。
今日は平野さんを見習って、ひとりで頑張らなくっちゃ。
ゴム手袋をはめ、右手にはトイレ専用洗剤、左手にはスポンジを持つと男子トイレへと向かう。