会長と天花寺先生は「場所を変えて飲み直す」と、早々にホテルをあとにした。洋匡さん紗子さんとも別れた総一朗さんと私は、マンションに向かう車の中にいる。

「和花、今日はよく頑張ったな。あの親父を落とせたのも、お前のおかげだ」

褒められるのは慣れてない。でも今日はその言葉を素直に受け取り、総一朗さんの手持ち無沙汰にしている左手に指を絡ませた。

「今日ダメなら一生許してもらえないと思って、思った以上に頑張っちゃいました。でも……」

今日のことがうまく行ったのは、総一朗さんのお母さんのおかげ。きっと素敵な人だと思うけれど……。

「総一朗さん、ひとつ聞いてもいいですか?」

「いいぞ、何でも聞け」

「総一朗さんのお母さんのことですけど……」

「ああ、そうだったな」

私の質問に、総一朗さんがハンドルを強く握る。

「俺の一歳の誕生日を待たずに亡くなったと聞いている」

もちろん総一朗さんに、母親の記憶はない。

生まれつき身体が弱く総一朗さんを産んでからずっと入院生活だったから、写真も数枚しか残ってないと総一朗さんは話してくれた。

「そうだったんですね」

総一朗さんから、お母さんの話は一度も聞いたことがなかった。だからもしかしてとは思っていたけれど、やっぱり……。