紅茶色の媚薬を飲まされて
紅茶色の嘘

「今日は朝から、王はインドール濃いめの茶葉をご所望だそうだ」

「へっ!?」

至って真面目な顔で、王の側近のカバリがそう告げるものだから、ネルは目を見開いたまま彼の顔をとっくりと見つめてしまった。

インドールとは何を隠そう、媚薬効果を持つ物質のことで、ジャスミンやセイロンに多く含まれている。
国で数十人しかいない紅茶選考師の資格を持ち、王家の紅茶殿に仕えるネルはその意味を瞬時に理解し、みるみる顔が赤くなっていく。

「お、王がそんなことを言うなんて珍しい……」

ぼぼぼ、と赤くなる頰を押さえながら、目的の紅茶瓶を棚からふたつ持ち出して、すり鉢が置いてある机に移動する。

二十歳を超えたばかりの若く聡明な王は、二つ年上の他国から来た王妃とそれは仲睦まじい。年齢的にも、仲の良さから言っても、あまり媚薬を必要とは思えないのだけれど、ご所望とあらば従うのみだ。

濃い茶色の葉と、深い緑の葉を丁寧に丁寧に、少しずつすり鉢に加えながら、ゴリゴリと煎じていく。

視線を感じて、ちらり、とカバリを見やる。
カバリは何が楽しいのか、いつもネルが紅茶を煎じるところを熱心に見つめている。

真面目一辺倒の彼は、王の幼馴染で、剣術の達人だった。
毎朝と毎夕、私のところに来て、その日に王が望む茶葉を告げる。側近であるとはいえ、位も高いのだから、カバリがそれをやる理由もないのに、真面目な彼は欠かさずきちんと王の要望を伝えてくれる。

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