心にきみという青春を描く
5palette□ 美術室に流れ星






朝の美術室はとても空気が清んでいて、いつ来てもぽかぽかとしている。そんな中でなぎさ先輩は今日も絵を描いていた。


「っていうか、そんなに見られてるとやりづらいんだけど」

私も描きかけのキャンバスを完成させに朝練に来たのに、イーゼルの前には座らずに、先輩の隣にちょこんと膝を抱えていた。


「だって先輩、さっきからずっと絵の具がついてますよ」

「え、どこ?」

「ここです」

  
私は腕捲りしている先輩の肘を指さす。

擦れたというよりは絵の具をそのまま付けたようにべっちょりとなっていて、どうやったらそんな風になるんだろうと思うぐらい。


「わ、本当だ。気づかなかった」

「もう、気づいてくださいよ」

私は二次被害を出さないために、ポケットからティッシュを出して絵の具を拭き取る。

色はやっぱり青。そして画板の周りに散乱している絵の具も青ばかりで、先輩は青いひまわりしか描かない。


「なつめとふたりきりになるのって、泊まりに行った時以来じゃない?」

気づけば今朝のニュースでは梅雨入りが発表されていて、先輩がうちで一晩過ごしたことが遠い昔のことのように感じる。


「鍵はもうなくさないでくださいよ」

「大丈夫。新しくした鍵には鈴つけたから」


そう言って先輩が鈴付きの鍵を見せてくれた。リンリンと揺らすたびに音が鳴り、先輩が持っていると本当に猫みたい。

猫背に猫っ毛に猫舌に猫みたいな薄茶色の瞳。
そんな先輩を好きになって、もう何日が過ぎただろう。

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