絶対に守るから。
四章・苦しい時ほど

ごめんなさい

泣かない。召使いが死んでも、友達が死んでも。か弱い女の子だと思っていた姫様は泣かなかった。ずっと一点を見つめ、何かを思い返している様子ではあるけれど死を悲しんでいる時の表情ではなかった。
確かに俺は平凡な家で普通の生活をして普通に育てられて夢だった職に憧れだけで入るような、いわゆるお気楽で幸せな人と呼ばれる側の生き物なんだと思う。けれど、幸せだからこそ普通の死に立ち合いもしているんだ。例えば、祖父母が亡くなった時とか、可愛がってくれた村長が亡くなった時とか。普通に立ち合って普通に悲しんで涙した。だから、普通の死の悲しみを知らない訳じゃない。
親しい友達が目の前で亡くなったのなら、俺の知っている悲しみより何倍も辛いはずだ。なのに、姫様は涙ひとつ見せやしない。無理して平然を装っている訳でもない。本当は優しい言葉を掛けたり、今まで通りの目で見つめていたいのに俺の心は変わってしまった。
< 91 / 270 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop