南町奉行所の年番方与力の跡取りである嫡男と
北町奉行所の年番方与力の娘の縁組が整った。

善は急げ、とあれよあれよという間に祝言の日が決まる。

当家の者たちよりも「気の変わらぬうちに」と、南北の各奉行の方が前のめりだった。

それに伴って、支度すべきことがわんさか押し寄せてきた。

とりあえず、日にちがかかりそうなものから片付けることにして、本日は祝言のための着物を見に、志鶴(しづる)と母・志代は供を連れて日本橋まで来ていた。


「……やたらと気疲れしまするなぁ」

志代が(たもと)から手拭いを出して、汗をぬぐう。

平生は閑居な武家の組屋敷で、日がな一日を過ごす武家の女たちにとっては、往来の(せわ)しない人いきれだけでも気(おく)れするのだ。

ただ母の場合、志ろき屋で次から次へと出された着物を、嬉々として志鶴の肩にあてがうのに、はしゃぎ過ぎたからであろうが。

嫁ぎ先がどこであれ、やはり一人きりの娘の祝言のための支度は楽しいのであろう。

その横で、志鶴は人知れず、深いため息を漏らした。祝言が決まって以来、幾度このようなため息を漏らしたことであろうか。