大江戸ロミオ&ジュリエット

奉公人の案内で多聞の部屋の前まで来た。

実家と同じく三百坪はある御屋敷だ。
初めての本日は、案内人(あないにん)がいなくてはたどり着けぬであろう。

奉公人がすっ、と下がる。

志鶴は明障子(あかりしょうじ)の前で正座した。

「……志鶴にてござりまする」

声が震えぬよう、腹に力を入れて申す。

「入れ」

凛とした声が返ってきた。

志鶴は一度息を吸って、背筋を伸ばしてから、明障子をすーっと開けた。

「旦那さま……お初に御目にかかりまする。
志鶴にてござりまする」

夫となった多聞に平伏する。

本日、晴れて夫婦(めおと)になった二人であるが、初めて顔を合わして口をきいたのだから、志鶴はかような口上になる。

(おもて)を上げよ」

多聞から云われ、志鶴はすっと顔を上げた。

初めて、目と目が合う。

多聞にぐっ、と見つめられる。
ぎらり、とその(まなこ)が鋭い光を放った。

ものすごい目力であった。

< 35 / 389 >

この作品をシェア

pagetop