独占欲強めな社長と政略結婚したら、トキメキ多めで困ってます

 真剣な表情の佐々木さんを不安に思いながら見つめていると、ゆっくりと彼の顔が近づいてきた。
 きっとそれは一瞬の出来事だったのに、私にとっては一瞬がとても長く感じて――
 頬に触れた彼の唇。
 その感覚を実感できるほどの余裕はなく、気が付けば彼はもう目の前にいなかった。

「……っ!」

 頬にキスされた!!

 口づけされた左側の頬を手で覆い、廊下を歩いていく佐々木さんの背中を見つめた。
 どうしよう、心臓が壊れそう。
 ドキドキ、バクバク、変な汗が拭き出して全身が熱い。

 藤崎詩織……いや、今日から佐々木詩織だ。結婚生活はまだまだ始まったばかり。頬にキスをされただけで、こんなに緊張していてこの先大丈夫なの?

 政略結婚のはずなのに、こんなに刺激的で胸が騒がしいなんて聞いてない!

 この先が思いやられる……と心配しながら、リビングに向かう佐々木さんを追いかけた。


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