目覚めたら、社長と結婚してました

【3rd piece of memory】

 バーに香ばしい香りが充満していき、私はカウンター越しに中の様子を窺った。トースターが赤く光っているのが見えて、夕飯を食べた後だというのにお腹が鳴りそうだ。

「はい、お待ちどうさま」

 紙袋に入っていたパンは近藤さんの手によってお洒落な白いお皿に盛りつけられ、見た目も美味しさもグレードアップした気がする。

「ありがとうございます。すみません、私まで」

「いいよ。持ってきたのは柚花ちゃんだし、みんなでいただこう」

 みんなと言ってもここにいるのは私を含め、マスターである近藤さんと久々にご一緒できた島田さん、そして怜二さんの四人だ。

 島田さんは初めて私がこのバーを訪れたときと同じ席に座っていた。もちろん怜二さんも。

 なので違うのは私だけ。私は怜二さんの隣に座っていた。彼と本の貸し借りをして、本の感想などを話すうちにいつのまにかここが私の定位置になってしまった。

 好みじゃないうえ女性嫌いの彼の隣に私が座っていいのか、悪いのか。でも怜二さんも特になにも言わないし。

 ほぼ毎週金曜日、会社の昼休みに通うお馴染みのパン屋さんに私は今日も足を運んでいた。

 先週、ここでそのパン屋がもうすぐ移転になるという話題になり、せっかくなので差し入れがてらおススメのパンをいくつか買って持ってきていた。

 近藤さんに渡すと、なんとこの場で温めてみんなで食べることを提案してくれた。バーなのにいいんだろうか、と思っていると島田さんも賛同したので、素直にここでいただくことにする。
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