彼の隣で乾杯を

イタリアの夜


散歩から戻ると、30代と思われる男女とオーナー夫妻が何か難しい顔をして話し込んでいた。
傍らには怯えた様子の若いフロント係の女性の姿も。

私と高橋の姿が目に入ると、オーナーの夫人が駆け寄ってきて早口で話しかけてくる。

聞けば、予約ミスをしてしまい、ビジネスで訪れたこの二人をハネムーンだと勘違いしていてスィートルームを確保してしまっていたのだという。

生憎の満室で空き部屋はない。
そこに戻って来たのがシングルルームを二部屋キープしていた私たちだというわけで。

「いいですよ。シングル2部屋、お譲りしましょう」

高橋が何の躊躇いもなく笑顔で応じている。
しかも、私に一言の相談もなく。

オーナー夫妻とミスしたフロントの女の子、宿泊予定の二人に口々にお礼を言われて、もはや私は何も言えない。

高橋はちゃっかり交換条件としてワインを余分に購入できないかとオーナーに持ちかけている。

ここの特別なワインは1泊につき1人1本しか購入できない決まりで、神田部長からの指示は最低でも3本。できれば何本でもというものだった。
私たちは2人で2泊するから4本は保証されているのだけれど。

部屋を譲った男女はお礼にワイン購入は自分たちの分を譲ってくれると言うし、オーナー夫妻も10本までならと交渉に応じてくれた。

で、今夜はスィートルームお泊まりが決定。

・・・ハネムーナーのスイートルームって寝室が2つとかベッドが2台あるんだろうか?
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