彼の隣で乾杯を

パーティー



早希が戻ってきてひと月とちょっと。
わが社とつながりのあるキネックス社のパーティーはかなり盛大なものだった。
経団連のお偉方の姿もちらほらと見える。

「だ、騙されたっ」
と言ったのは親友の早希。

私は事前に副社長から二人の婚約発表の場にするからと早希のドレスアップを手伝うように頼まれていて、今夜早希を完璧な淑女に仕上げていたのだった。

そうとは知らない早希はタヌキの秘書としてこのパーティーに出席するつもりだった。
そもそもTHコーポレーションの副社長と早希の婚約発表は来月の予定だったからだ。

それが急に今夜になったのは事情がある。

キネックス社の専務と営業部長がタヌキの元を訪れた時にあちらの営業部長が早希に一目ぼれをしてしまったのだ。
会社を通じて早希との見合いをしたいと打診があり慌てたのは副社長だ。

そのキネックス社の営業部長というのがキネックス社の社長の息子でうちの副社長とは知り合いだった。
「アイツは昔から問題児だった。横恋慕、強奪、二股、三股なんか日常茶飯事」

”早希は俺の婚約者だからムリ。”
”ああそうか、じゃあしょうがないな、諦めるよ。”

なんて会話で普通終わるだろうと思うんだけど、違ったらしくて。

営業部長は「まだ結婚していないのなら俺にも可能性があるってことだろ」と言ったらしい。

ふざけんな!と怒った副社長がわざわざキネックス社のパーティーで早希を婚約者として周囲に見せつけるようにお披露目することにしたのだ。

ところが真っ直ぐな早希の性格上そんな子供じみた真似に付き合うとは思えない。そこで副社長は私に連絡してきたというわけだ。

私も副社長と早希の二人の間に何かあってまた彼女がいなくなることだけは絶対に避けたい。
副社長のことはまだ許したわけでも認めたわけでもないけど、今回は喜んで副社長に協力をしたというわけだ。


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