彼の隣で乾杯を
温泉

友と温泉

***

お昼休み、早希と時間を合わせて社食に行くと

「ね、温泉行こう!温泉!」

なぜかいきなりのお誘い。しかも早希はノリノリだ。


「だって、せっかく当たった旅行券使ってないんだもん。約束だったよね、一緒に温泉行こうって」

それはそうだけど。

その約束したのってもう1年前以上前だよね?

早希が会社の創立記念パーティーの福引抽選で当てた旅行券。
あれから早希がいなくなったりといろいろあって、結局行ってないわけだけど。
使用期限とかないのかな。

「宿は私が選んでいいよね?由衣子はお休み取ってね。なるべく早く行きたいの。来週の土日でいいよね。絶対休んで」

有無を言わさない早希に押しきられて私はただこくこく頷くだけ。

「うん、絶対よ」

張り切り方がすごい。
どうした、早希。

「常務の方は大丈夫なの?」

「うん、今週は一日逃げられた日があったけど、来週は逃がさないように見張りも増やすから」

タヌキと早希の攻防戦。
どうやら日に日にエスカレートしているらしい。

タヌキは隙あらば逃亡し、
飼育係の早希の口からは「常務室のドアに開閉すると鳴るセンサー式のドアチャイムをつけた」「外鍵つけた」「GPSを仕込んだ」等々過激な発言が飛び出している。

常務もアレはまずかったよね。

マネキンに常務のスーツを着せて執務室に座らせ部屋から逃げたらしい。
しかも、常務の体型に似せたマネキン・・・ってあの信楽焼タヌキ体型のマネキンってどこでゲットできるんだ?!って話。

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