彼の隣で乾杯を
******

翌朝目が覚めると自分のベッドだった。


そうか、昨夜は睡魔に負けて高橋の胸の中で眠ってしまったんだ。
自分でベッドに入った記憶はないから高橋が運んでくれたんだろう。

眠ると子供でもずっしりと重い。と言うことは成人女性の私は相当重かったんじゃないだろうか。
寝ちゃうとはホントに恥ずかしい。



ゆっくりと起き上がって寝室を出ていくと、シャワーの水音がする。
ソファの横には高橋の荷物。カーペットには枕にしていたであろうクッションの山とブランケット。

よかった、まだいた。
高橋が帰らないでここに泊まってくれたことに安堵した。

ーーー実は高橋が私の部屋に泊まったのは初めてではない。
初めは失恋してかなり落ち込み体調を崩して倒れた私を看病するためだった。あれから何年たっただろう。
それからたまに宅飲みで深酒してしまったときなどそのまま泊っていくことがあった。

今回もまた慰めてもらって・・・進歩がない私。
あの頃と全く変わらず彼に迷惑をかけている。

パタパタと朝食の支度をしていると、シャワーを浴びた高橋がキッチンに現れた。
彼はTシャツにスウェットパンツ姿。出張の帰りだったことで部屋着を持っていたらしい。

「おはよう、由衣子。勝手にシャワー借りたぞ」

「ん、おはよ。はい」私は笑顔でグラスに入れたオレンジジュースを差し出した。

「サンキュー」
ごくごくっと一気に飲み干す高橋ののどぼとけを見てドキッとする。

相変わらずいい男。

知り合って4年。入社当時の初々しさは無くなり、今は若手有望株だと言われるほどの彼のパワフルな仕事ぶりは違う部署の私の耳にも届いている。

顔も性格もよくて仕事が出来るなんて女子社員から人気がないはずがなく、総務の何とかちゃんや受付の何とかちゃんが告ったとか噂はたくさん聞いている。
どれも玉砕したらしいけど。

高橋の髪はまだ濡れていて、拭いてあげたくなり手を伸ばしかけたけれど、ぐっと我慢した。

だって、彼はこんな風に部屋に泊まってくれたけど。

私のピンチに現れて助けてくれるトモダチで
ーーーー恋人じゃない。




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