彼の隣で乾杯を
*******


「イタリア出張ですか?」

「そう」

「わかりました。こちらで用意するデータなどあれば早めに言ってください。それと、主任が留守中のこちらでの決裁は私に一任してもらえるのでしょうか?」

「うーん、誤解があるみたいだけどーーイタリア出張に行くのは僕と薔薇姫の二人。留守中の責任者は社長。
もしかしたらお飾りに見えてたかもしれないけど、社長はずっとチームの動きをきちんと把握してたから」

ええっ、聞いてません。
さらりと言った小林主任の顔を二度見してしまった。

「みんな、これからも決済に関して俺と連絡がつかない時には社長の指示で動くようにね」

小林主任はチームのスタッフを見回し、スタッフたちはそれぞれ頷いている。

待って、私と小林主任が二人でイタリア出張?噓でしょ。

週に一回行われる水曜朝の定例チーム全体ミーティングで主任との出張を告げられ現在心の中はプチパニックを起こしている。もちろん表面上はクールな顔を崩してはいないけど。

「主任、私が行かなければならない理由をお聞きしても?」

さすがに他のスタッフもいるミーティングの場で騒ぐわけにはいかない。動揺を抑えて声をだした。

「あっちで交渉しないといけないことや現地視察諸々どうしても片付けなきゃならなくなった。
それと、半年前に副社長が直々にイタリアに行って進めてた案件も大きく進んで追加交渉が必要になってな。今、副社長は国内向けの新しいプロジェクトにかかりきりだから、そっちも僕が任されることになった。
どうにも一人で回せる仕事量じゃない。あとここの最大の戦力は薔薇姫だろ」

目の前に資料の束を積まれて現実を突きつけられる。

「確かにいくら小林主任といえど、これ一人で1週間の出張でこなせる仕事量ではないですね」
私のアシスタントの久保君が眉をしかめ頷いている。

ううっ。ここにきて副社長案件。
またしても私の敵は副社長か。

最後まで責任持って仕事しやがれって悪態つきたくなるけど、最近副社長は恐ろしい勢いで新しい国内向けのプロジェクトに取り組んでいて余裕がないらしい。
昼休みに社食で会った高橋がそう言っていた。
< 54 / 230 >

この作品をシェア

pagetop