彼の隣で乾杯を
高橋は私の手から焼酎の瓶を取り上げ「寝るなよ」と透明な液体を二人分のグラスに注いでいく。

「世間のやろーどもは海外事業部の薔薇の花と呼ばれる由衣子の大好物が梅干しを入れた麦焼酎だって知らないんだよな」とニヤリと笑った。

「女子の大半がワイン、シャンパン、おしゃれで甘いカクテルが好きなんて男の勝手な思い込みだよね」
口を尖らす。
「私もそこは大人だからあえて否定はしないんだけど」

「お姫様は外で薔薇の花のイメージを崩さないようにおしゃれなお酒を飲んでるワケだ」

「ま、そういうこと。ビジネスにわざわざ内面さらけ出す必要ないし」

「社内の飲み会もビジネス?」
「もちろん。あそこで自分をさらけ出す気にはなれないよー」

社内なんて魑魅魍魎だらけ。
私が私でいられるのはごくごく親しい人の前でだけ。
「薔薇姫」とか「姫」「薔薇の花」なんて呼ばれているのだってつんつんしているから。


「まあ由衣子の気持ちもわからんでもない。
よし、飲むか。明日も仕事だからほどほどだけどな」

乾杯してごくりと飲み干せば、独特の香りと共に喉の奥から胃に向かってアルコールが流れていくのが分かる。

「あー美味しい。やっぱりこれだわ」

「ああ、うまいな。この鼻から抜けてく香りもイイよな。ビールの後は焼酎に限る」

「高橋も焼酎派になったね」

「お前のせいだぞ。すっかり餌付けされちまった。次の出張の土産も酒でいいよな」

高橋はハハッと笑ってぐいっと飲み干した。

「黒糖焼酎とか芋焼酎でいいよ」

「おう、任せとけ。掘り出し物を手に入れてくるからな」

私たちはまたグラスを合わせた。カチンといい音がする。

この距離感を維持したいと思うのは贅沢なんだろうな。
高橋は御曹司で将来は父親の跡を継ぐ身だ。いつまでもこの会社にいるわけではない。
いずれ離れ離れになり、そのうち誰かと結婚する。

でももう少し、側にいたい。

あまりに長く深く友達として過ごしてきた私たちは男女の関係にはなれそうもないことはわかっている。
だから余計に友達でいいからそばにいたい。

その夜、ハイペースで飲んで酔い潰れた私はいつものように高橋にベッドに運ばれ、彼はリビングで毛布にくるまって眠り、翌朝ごはんを共にした。
いつも通りの何もない夜だった。


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