彼の隣で乾杯を
「そうか。わかっていたこととはいえ、現実に拒絶されるときついな」
ため息交じりの主任の声は淋しそうに聞こえた。
だからと言って私が主任の気持ちを受け入れることはない。

「いいんだ。全てを話すことでキミの心に与えたダメージをすこしでも取り払うことができれば俺も少しは報われるだろ」

私は顔を上げて主任を見つめる。

「俺は少し遅すぎたんだよな。そのキミの相手は…あの御曹司ってワケじゃないんだろ?」

御曹司という単語にギクリと反応する。

「キミならあのキザなイタリア人の御曹司の隣に並んでも見劣りはしないが、彼はキミのタイプじゃないような気がする」

え、あ、御曹司ってエディーのことだ。隠れ御曹司の高橋のことじゃなかった。

「ええ。もちろん違います」かろうじて口角だけ持ち上げて返事をした。

「今更だけど、お前には幸せになって欲しいと思う」
ブランデーの入ったグラスを持ち上げて私に微笑みかけた。

「本心だよ。できれば俺が幸せにしてやりたかったけど無理みたいだから、不本意だけど他の誰かに任せることにする。だから幸せになれ」

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