彼の隣で乾杯を
無言の高橋が私の顔をじっと見つめて、はぁと力が抜けるような息を吐いた。

え、何か呆れられた?意味わかんないけど。

「ウマイ飯でも食いに行くか」

私の額をツンっと小突いてニヤリと笑う高橋の表情はちょっと面白がってるようないつもの高橋のもので。どうやら機嫌は直ったようだ。

「うん!行く」

「よし」高橋は私の手首をつかむと速足で歩き出した。

あらら。ここの会場のテーブルにはまだたくさんの美味しそうな料理が並んでいるのにここで食べる気はないらしい。

隣を歩く高橋の横顔を盗み見てもさっきまでのとげとげした表情はもうない。
機嫌が直ってよかった。こんな様子の高橋を見たのは初めてだったから。

以前から早希と3人で飲みながらお互い愚痴をこぼしたり文句を言ったりすることはしょっちゅうあったけど、イライラした顔を自分にぶつけられたことはなかったからちょっとびっくりした。
まあすぐに戻ったからよかったけど。

パーティー会場から引っ張り出される途中でご婦人がたに囲まれた小林主任と目が合い、目を丸くして驚いている様子だった。
こちらも男の力でぐいぐいと腕を引かれているから視線を向け頭を下げるだけで精一杯。
林さんが説明してくれるだろうけど、後で電話かメッセージを送っておかなくちゃ。



会場から出てすぐにタクシーに乗せられて連れて来られたのは広々としたオープンテラスのあるレストランだった。

ディナーには少し早いこの時間のテラスではアルコールを頼む人はまだ少な目で、のんびりとカフェを楽しむ人の方が多いようだ。

「後でゆっくり飲み食いさせてやるからここでは軽くしとけよ」

ん?後で?
私の顔に疑問符がたくさんついてしまう。

「そう、夜は違う店に連れていってやるから」

「そうなの?」

「楽しみにしとけ」

軽くしとけと言われ、とりあえずの空腹を満たす為にピザとパスタを一皿ずつ頼んでシェアすることにした。

「アルコールはもう少し待て」と言われたからノンアルコールで我慢。
夕飯はかなり期待していいみたい。
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