ストロベリームーン

蓮の秘密


 インターホンを鳴らしても応答はなかった。

 蓮はポケットから鍵を取り出すと鍵穴に差し込み扉を開ける。

「璃々子」

 しばらく待っても返答はない。

「璃々子いないの?」

 靴を脱ぐと並べてあるスリッパを踏みつけて中に入った。

「璃々子ー」

 沈黙に呼びかけながらゆっくりと家の奥に進む。

「いないんだね」

 誰もいないダイニングキッチンをぐるりと見回すと、蓮はテレビ台の1番上の引き出しを開けた。

 文房具にやたら電池が入っている。

 2番目3番目と順に開ける。

 次に寝室に向かった。

 入って左に化粧台がある。

 蓮はまだ璃々子が化粧を取った顔を見たことがない。

 鏡の前に立つと自分の前髪を整えた。

 化粧台の引き出しを開けると化粧道具がぎっしり詰まっていた。

「な、訳ないか」

 セミダブルのベッドに腰かける。

 2人で寝るときはいつも璃々子が壁側に寝る。

 ベッド横のサイドテーブルの引き出しを開ける。

 体温計とコンドームの箱。

 その奥に大きな腕時計があった。

 手に取るとずしりと重い。

 ゴールドで囲まれた青い文字盤の時計はアラブの民族衣装が似合いそうだ。

「これが300万か」

 自分の腕にはめてみる。

 鏡の前に立ちポーズを取る。

 玄関で物音がした。

「蓮くん?」

 璃々子の声。

 慌てて時計を外そうとして床に落とす。

 ゴトリと重い音がした。

 急いで拾いあげると蓮はそれを自分のポケットに入れた。

 何食わぬ顔をして寝室を出ると、ダイニングキッチンのテーブルにスーパーの袋を置く璃々子を後ろから抱きしめた。

「お疲れさま」

 蓮が耳元で囁くので璃々子はくすぐったそうに首をすぼめる。

「蓮くんの好きなカツサンド買って来たよ。勝手にテレビとかつけて見てていいのに。なにしてたの?」

璃々子は流しの横に洗って伏せておいた灰皿をテーブルに置く。




< 73 / 153 >

この作品をシェア

pagetop