その瞳は、嘘をつけない。
5章 steady
一線を越えてからも私たちの関係はそれ程大きな変化はなかった。
会うのは基本はお互いの家という、映見ちゃんなんかが聞いたら大騒ぎしそうなくらい内容は地味だったけど。
秀くんも私と会うためにわざわざ勤務を交代してもらったのは最初のショッピングセンターデートの時だけ。
勤務後や、私のシフトによっては当直明けに、ゆっくりと話をしたり、お互いに好きな本や映画を見てのんびり過ごし、一夜を共にする。
どちらも不満を唱えることはない。

7月のある日、夜に秀くんが訪ねてくるという連絡があったものの、つい私が寝てしまっていたという事態があったときに、部屋の合鍵を渡してみた。
「いいのか?俺はいつでもここに空き巣に入れるぞ?」
なんてにやりと笑う彼。
「取られて困るような財産はありません。ていうかしっかり通報しますから、犯人はこの人ですって!」
「その通報は俺が握り潰す。」
お互いに笑いあう。

耕平との2年の同棲生活があったからか、’プライバシー’とか、’お互いの生活’といった概念が私には薄いのかもしれない。
いつ来られても構わないし、留守中に上がり込んで貰っても気にしない。
シフトも把握してもらっているので、ワンパターンな私の生活スタイルを考えると、私がいつどこにいるか、秀くんなら簡単に把握できるだろう。
こんな状態を、窮屈、とか束縛と捉える人も多いと思うけど、私は気にしない。
いちいち連絡を取り合って、約束をして会う方が面倒だとさえ感じてしまうのだから。

・・・これって恋愛っていえるのだろうか。
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