もう一度、愛してくれないか

「うわぁ〜どないしょ〜!日本有数の大企業の御曹司と婚約してるのに、ギリシャの若き大富豪とアラブの王族の皇太子とヨーロッパの小国のプリンスからもプロポーズされてしもた〜‼︎」

興戸がマロンブラウンのくるんくるんの巻き髪を揺らして、いや〜ん、と悶えている。


「あぁ……うちのために、争わんといてぇ。源義経はんと織田信長はんと坂本龍馬はんから一人選べやなんて、うち、できひんわぁ……うわぁっ、ナポレオンはんまで、うちを奪いに来はったえ〜!」

七条が腰まである緑の黒髪をつやりと光らせ、よよっ、とデスクに崩れた。


「証拠はしっかり押さえとうで。あとは追い込みかけるだけや。なんで女房子どもがおるくせに、婚活パーティなんかに来ようねん?アンタの女房にもぜぇんぶバラして、息の根止めたるからな。
……ウソつき詐欺野郎、覚悟しいや」

鳴尾が漆黒の前下がりボブをかきあげて、にやり、と氷の微笑を浮かべる。


社内のPCを使って三人がとてつもない集中力でやっているのは、仕事ではなく「乙ゲー」だった。
無課金でお得にゲームでき、あわよくば特典ゲットできる、二十四時間限定の「フィーバー祭り」が始まったのだ。

ちなみに、彼女たちが会社の契約しているプロバイダのインターネットで乙ゲーをしているのは、内規によりオフィスでの私物のスマホは使用禁止だからである。

だからといって、会社のインターネットを無断私用するのは、内規に書いてなくても、常識的にやってはならないことなのだが。


……この人ら、こんなに美人やのに。
リア充とちゃうねんなぁ。

北浜にある大阪支店の営業部に、彼氏がいる豊川はそう思った。

< 8 / 200 >

この作品をシェア

pagetop