騎士団長のお気に召すまま
御空の眼差し
翌日、アメリアに辞令が下った。

しかしそれを知った者はみな驚きを隠せはしなかった。


「これ、本当ですか?」

「団長のサインがあるから、本物だよ。でも、こんなこと、あたしも初めて聞いた」


当人であるアメリアも、教育係のジルも、掲示板に張り出された辞令を見上げて呆然とする。


「新入りが団長室の担当になるなんて」


それは今までにないことだった。

この騎士団では、新入りは教育係に仕事を教えてもらい、一人前になると仕事場を移るようになる。

最初は皿洗いや便所掃除から始まり、回廊掃除、洗濯、団員の私室の掃除など、段階を踏んで実力をつけ、最も実力のある者が団長室の掃除を担当する。

そのため清掃係にとって団長室担当に就任することは夢のまた夢であり、皆が目指している場所であるのだ。

そのため先日入ってきたばかりのアメリアが就任することは、当然あり得ないことだった。

周りにいた他の清掃係の女性達も「なぜ新入りが?」と訝しい目でアメリアを睨みつける。

その視線にアメリアが萎縮していると、ジルがその背中を思い切り叩いた。

じんと広がる痛みに「何をするんですか」とアメリアが背を擦りながら顔を向けると、ジルは歯を見せて笑った。


「あたしら清掃係にとって、団長室担当は名誉なこと。だから胸張って頑張んな」


それはまるで周りの目を気にするなと励まされているようだった。

アメリアは気が引き締まる思いで「はい!」と頷いた。
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