騎士団長のお気に召すまま
白藍の令嬢
アメリアが団長室担当として働き出してから数日後、団長室に呼ばれたアメリアが中に入ると、そこには団長であるシアンの他に、副団長であるレオナルドもいた。

シアンはいつも通り不機嫌な顔をしているが、レオナルドは対照的に「おはよう、アメリア嬢」と爽やかに笑うどころか手まで振ってくれている。

いつも笑顔で明るいレオナルドとは顔を合わせる機会も多いこともあって、廊下などでばったり顔を合わせると立ち話しをするような間柄になっていた。

副団長であるレオナルドが団長室に顔を出すことも珍しくはないが、自分がなぜ二人の元に呼び出されたのかと考えると思考は全くまとまらない。

そんなアメリアにシアンは「港へ見回りに行きます」と何てことないような言い方で告げた。


「え、港への見回り、ですか?」

「そう言いましたが。聞き取れているのになぜ聞き返すのです」


無駄に聞き返すなと言わんばかりにシアンは眉間に皺を寄せた。

それを聞いたレオナルドは「アメリア嬢が言ったのはそういう意味じゃないさ」と紅茶を片手に明るい笑顔を見せる。


「団長であるお前がわざわざ見回りをする必要性を聞きたかったんだろうよ。だろう、アメリア嬢?」


自分の気持ちを代弁してくれたレオナルドに、アメリアは大きく頷いた。

下っ端の仕事にも思える見回りを、わざわざ騎士の長であるシアンがする必要があるとはとても思えない。

それでなくともシアンは書類仕事が多いのだ。

わざわざ仕事を増やすような非合理的なことを、なぜシアンがしようとしているのか、アメリアには分からなかった。


けれどシアンは「僕が見回りをするのは当然のことですよ」と答えた。なぜそんなことを聞くのかと言いたそうでもあった。
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