騎士団長のお気に召すまま
瑠璃の伯爵
ミアの案内で連れていかれたのは、夜会会場から少し離れた場所にある東屋だった。

キャンベル邸の誇る手入れの行き届いた庭園の真ん中にあるそこには夜会会場の声も届かない。月明かりのもと、しんと佇んでいる。

促されて東屋の中にあるベンチに座ると、ミアは美しい紅で彩られた唇の端をあげて微笑んだ。


「ここ、素晴らしいでしょう? ここから見える薔薇と月明かりが美しいのですよ」


優雅に微笑む彼女はまさしく貴族のお嬢様。

久しぶりに感じる高貴さ圧倒されながらも「そうでございますね」となんとか微笑み返す。


「夜会はお客様もたくさんいらっしゃいますしとても楽しいものですが、短い期間に何度も参加しますと少々疲れてしまいますわよね」


ふう、と息を吐き出すミアに苦笑いを返すしかできない。

アメリアはミアのように夜会に何度も出席できる身分にはない。共感を求められても難しいのだが、それを直接伝えることもできなかった。


「先日は驚きましたわ。貴族のご令嬢である貴女が、まさか騎士団で働いているなんて」


ドキリと心臓が鳴る。憐れむようなミアの瞳に見つめられると、蛇に睨まれたような感覚がする。


「どういった経緯で働かれているのです?」


しかしそれを説明してしまうわけにはいかなかった。

シアンに婚約を考えてもらうため、だなんてこのミアに口が裂けても言えない。怒りを買うことは火を見るより明らかだ。

なんとか笑ってごまかそうとするアメリアに、ミアは答えを聞く前にこう続ける。


「あなたはシアン様の許嫁なのでしょう?」
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