臆病でごめんね
「だからって他人を攻撃して良い、なんて事にはなりませんけどね。どんな環境に育とうと、真面目に粛々と生きている人はごまんといるでしょう」

本来ならこちらサイドが言うべき事を、夢乃はキッパリとした口調で主張した。

「でも、この期に及んでも母はまだ現実が見えてないみたいですけどね。刑事さんはご存知かと思いますけど、『あの子が理由もなくそんな事する筈ない!きっと周りに陥れられたんだ!』って半狂乱になって、さっそく弁護士を手配してました。あんなモンスターを、うかつに擁護なんかして欲しくないんだけど」

「……弁護士を付ける権利は誰にでも平等にありますから」

「ああ、そうらしいですね。だけど、胸中かなり複雑です」

俯き加減に深いため息を吐いてから、夢乃は意を決したように顔を上げ、言葉を発した。

「家族がこんな事を言うのはおかしいかもしれませんけど、どうか真実をすべて白日の下に晒して下さい。どうせ私はもう「犯罪者の妹」としてハンデを背負って生きていくのは決定事項なんだから…。だったらせめて姉に、その罪に見合う罰をきちんと受けさせて下さい」

その年齢にはそぐわない、強い意志と覚悟を持った、真摯な瞳で。

「これが姉にとって、人の心を取り戻せるかどうかの、最後のチャンスだと思うから」
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