伯爵令妹の恋は憂鬱
5.優しい側近の決断


一行は屋敷の中へと戻った。広間で待ち構えていたディルク夫妻とアンネマリーは、一行の姿を見るなり駆け寄ってくる。
フリードが遺書を見せると、ディルクは目を丸くした。


「本当にあったんですね」

「ああ。とんでもないところに隠れていた」


すでに日は暮れかかっていて、アンネマリーは帰る時間を気にしている。ミフェルに話しかける内容からそれを察したフリードは、ふたりに泊まっていくように誘った。


「アンネマリー殿、よければ今日はミフェル殿とともに泊っていってくれないか。まだミフェル殿と積もる話もある。子爵家には心配されないように伝令をだしておくから」

「え? いいんですか?」


フリードの提案にアンネマリーははしゃいだ声を出した。
決まるが早いか、フリードはアンドロシュ子爵家に伝令を出し、カスパーにはふたりと彼らの乗った来た馬車の御者用の寝室を用意するように伝える。カスパーも対応も早い。屋敷は一気にあわただしい空気に包まれた。

客人の部屋の手配はカスパーたちに任せ、フリードは遺産についてディルクと相談していた。


「遺書の内容は、この屋敷の所有権に関するものだ。おばあさまは屋敷とこの土地の権利をミフェルに渡すよう要求している」

「しかし。何のゆかりもないミフェル様に渡すとなれば、いろいろ問題が起きるでしょう。外聞的にもあまりよくありません」

「ああ。だから、その場合はマルティナとミフェルの婚姻が前提条件となる」


マルティナは漏れ聞こえる言葉に身をすくませる。

トマス以外の人のもとへ嫁ぐなんて絶対に嫌だ。だけど、トマスのもとに嫁ぐこともまた不可能だ。かといってずっとこのまま伯爵家にとどまれば、いずれは厄介者になるのは目に見えている。兄も姉も表立って口に出すことはないだろうが、マルティナ自身がそう考えてしまうのは目に見えていた。

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