伯爵令妹の恋は憂鬱
6.この恋を手にするために


「マルティナ? 開けてよ、マルティナ」


連日、マルティナの寝室のドアをノックするのはミフェルだ。
現在、ミフェルはフリードの側近として働いていて、クレムラート家に一室を借りて住んでいる。

フリードは、リタの遺書に関して一定の理解を示した。
しかし、ミフェルが思い描いたように、マルティナを娶らせてあの別荘を譲るという安易な行動には出なかった。

“あの別荘が欲しいなら働くんだな。俺のところで雇ってやろう。悪口を言い合えるような側近が一人いてもいい。お前があの別荘を買い取れるくらい稼げるようになるまで、あそこは維持しておいてやるよ”

ご丁寧に、父であるアンドロシュ子爵に会いに行き、直ぐにミフェルを預かる話をまとめ上げたのだ。
そのうえで、フリードはこうも言った。

“それとは別にマルティナが欲しいならば、自分の魅力で落としてみるんだな”

どうやら別荘のこととマルティナのことは別に考えろということらしい。
伯爵はどこまでも実力主義のようだ。これまで、家名に甘んじて引きこもっていたミフェルも一念発起して働きだす。

マルティナの歌声は、それまでの彼女の印象を塗り替えるほど美しく深く心に響いた。
トマスがいなくなったこともあり、マルティナ部屋に引きこもるようになっている。どうしてもまた歌を聞きたいミフェルは、あの手この手を使って、彼女を部屋から出すために必死だ。

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