伯爵令妹の恋は憂鬱
エピローグ

 クレムラート伯爵領にある教会で、婚姻の成就を祝う鐘が鳴り響いた。
二十七歳のたくましい体を白の礼服に収めた新郎と、十七歳の美しくみずみずしい花嫁が、参列者のほうを向き、歩き出す。


「おめでとう! マルティナ、トマス」


参列者の祝いの声がそこかしこから響く。

誓いのキスを終えたばかりでまだ頬の染まっている花嫁は、横目で隣を歩く新郎を見つめる。
堂々と背筋を伸ばし、時折気遣うように視線を向けてくれる優しい人。
今日からは、マルティナの夫となる、トマスだ。

笑顔で手を振ってくれるのはフリードとエミーリア。身を乗り出すようにしているのがメラニーに抱かれたエルナ。
他にも、ディルクにローゼ、ギュンターと参列者はなかなかに豪華で、トマスの両親は恐縮しかりで小さくなっている。

ほかにも、仕事で付き合いのある養蜂家や貴族、商人たちも来て祝福を述べてくれる。
式中の歌を担当してくれた聖歌隊は、マルティナも時々参加しているので顔見知りばかりだ。


教会を出たところで、式典は終わりだ。その後は場所をクレムラート伯爵家へ移しての食事会となる。
当初は、トマスとマルティナの新居で、と計画を立てていたのだが、彼らの新居は、古い屋敷を買い取り改築したものでそれほど大きくはなく、大勢の客を泊めることができないため、フリードの申し出に甘えた形だ。

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