伯爵令妹の恋は憂鬱
4.遺書はどこに

震えるマルティナを安心させるように、トマスは彼女の肩にポンと手をのせほほ笑んだ。
そしてキッと顔を上げてミフェルに挑む。


「……お言葉ですが、フリード様はマルティナ様を厄介者だとは思っていませんし、そんな交換条件のような結婚に応じるとも思えません」


トマスが代弁するように言ってくれたので、マルティナは吸い込んだままだった息をようやく吐きだすことができた。


「おや、そう? 別に交換条件も関係なく、僕はマルティナを気に入ったけどな。美しいしおとなしい。理想の妻だよ」

「あなたとマルティナ様は会ったばかりでしょう? 何をもってして彼女の性質を決めつけるんです?」

「見てればわかるんじゃない? さっきから言いたいことも言えず君の後ろに隠れてる。……かわいいよね。不満を訴えたりもしないんだろうし、引きこもっていたい僕にはピッタリだと思うんだけどな」


あっさりとミフェルが続け、トマスがいら立ちをあらわにする。
しがみついているマルティナには、トマスが歯を食いしばっているのが見えた。

ミフェルはちらりとトマスに不満げな視線を向けたが、直ぐに気を取り直したように息を吐き出す。


「……まあ、いいや。使用人と話したってどうにもならないし。ところで、ここには遺書はないようだよ。いい場所だったけどね」


先ほどまでのすごみはどこに行ったやら、突然軽い調子になってミフェルが笑う。トマスはむっとしたままミフェルを見ていたが、マルティナは人からの非難もものともしないミフェルにすっかりおびえきっていた。
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