略奪連鎖
 24歳の頃、私には学生時代からの付き合いだった同い年の彼氏がいた。

 6年近い年月を共に過ごし、そろそろ結婚を視野に入れて、と思っていた矢先、唐突に「塔子、ごめん。別れたいんだ」と別れを切り出された。

 理由を訊けば「好きな子が出来たんだ」と苦渋に満ちた顔で言われた。

 嘘も方便という便利な諺がこの世にはあるのに彼はそれを使用しなかった。

 私にとっては不誠実な事実。けれど“好きな子”視点で考えれば自分の存在を体のいい言葉で隠さず、彼女である私に事実を打ち明けたのだから、きっと彼は誠実な男なんだろう。

 立場によってこうも捉え方が違うんだと別れ話の最中に思ったことを覚えている。


 かつての夫、相坂 孝之に出会ったのは彼氏と別れて1ヶ月ほど経った頃だった。

 出会ったというのは少し違う。孝之とは当時私が勤務していたホテルに入社したときに既に出会っていたのだから。
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