navy blue〜お受験の恋〜
今夜も
読み聞かせをする自分の声が、今日はいつもより通らないなぁとみちかは思った。

なんだか耳の中でくぐもるような、こもった声に聞こえる。
それでもお姫様が王子様と結婚式をする最後のページまで読み終わり、ふと隣を見ると乃亜はすっかり寝息を立てていた。

小さな手が毛布からはみ出している。
キュッと口元を尖らせた、そのあどけない寝顔を数秒眺めてから、手を伸ばし広い額をゆっくり撫でた。
丸くて広い額は生まれた時から、とても綺麗な形をしていて玉のような子どもだと思った事をよく覚えている。

みちかはそっと、起き上がると寝室を出て廊下を歩きリビングの扉を開けた。
誰もいないシンとしたリビングの、いくつかあるうちの小さな電気をひとつだけ灯して壁際の本棚に手を伸ばす。
そして数冊の問題集を選び取ると、リビングの隅に置いてあるプリンターで印刷を始めた。

お話の記憶、点むすび、数量、しりとり。
1枚1枚印刷できたものをそっとダイニングテーブルに重ねていく。
プリンターの微かな機械音が夜の部屋に鳴り響く。
まだ21時を少し過ぎただけだというのに、なんだか夜中のようだ、とみちかは思った。
朝、娘が解くワークの準備をするのがみちかの毎夜の日課だった。
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