Perverse second
episode 4
「柴垣さーん」
エレベーターを降りたところで、無駄に甲高く甘えた声が俺を呼び止めた。
「今から外回りですか?頑張ってくださいねっ」
そう言いながら駆け寄ってくるのは確か……。
竹下……何とかという女性社員だ。
企画に所属しているというのは知っていたが、正直名前まで覚えてはいないし、必要もないと思っている。
最近やたらと俺に声をかけては擦り寄ってくる竹下には、鬱陶しいという言葉しかない。
好きな女に男として意識もされず、無理やり手を出しておきながら拒絶されてしまった俺からすれば、竹下のこの強引さは若干の苛立ちを感じさせる。
「今日は午後から雨が降るらしいですよ。折角のスーツ、濡れない様に気をつけてくださいね。柴垣さんが風邪でも引いたら大変です。あ、でも、そうなったら看病してあげますねっ」
彼女が俺に向ける目は、獲物を捕らえる前の女豹さながら。
今も俺の腕に絡めるように添えられた手は不必要に思える。
「はは……」
乾いた笑いを漏らし、俺は竹下から逃げるようにエントランスを出た。
空を見上げると、どんよりとした低い雲が浮かんでいる。
これからの何かを暗示しているような気がして、足速に駅へと向かって歩いた。