新居のタワーマンションは、最寄り駅から徒歩二分の好立地にある。
実質、相合傘でくっつきながら歩く距離は、それほど長くはなかった。
だけど奏介が言った通り、雨は結構本降りで、玄関に入り鍵をかけた時、お互い外側になっていた肩と腕はびっしょり濡れていた。


「奏介、ちょっと待ってて。今、タオル持ってくるから」


傘を持った奏介が、ずっと私の方に多く差しかけてくれていた。
だから、私より奏介の方が、びしょ濡れだ。
質のいい濃紺のスーツの左半身が、ずっしり水を吸って、さらに濃い色合いに見える。
傘はそのまま玄関に置いて、私は急いで靴を脱ぎ、廊下に上がった。


「ああ、いい、いい、七瀬。このままシャワーを浴びるから」

「そ、そう?」


肘を掴んで止められて、私は奏介を振り返った。
奏介も靴を脱ぎながら、「ん?」と眉間に皺を刻む。


「だが……七瀬も濡れてしまったな。俺が先では申し訳ないか」

「私は平気。奏介、先に入って」

「時間の無駄だな。一緒に入るか」


廊下に足を上げた奏介が、さらっと言った。
あまりに自然だったから、反射的に頷きかけて……。


「っ、えっ!?」


すぐにギョッとして大きく目を剥き、ひっくり返った声をあげた。
私の反応は予想通りだったんだろう。
奏介は口に手を当て、ぶぶっと吹き出す。


「お約束の反応、ありがとう。七瀬」