外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
「奏介」


私はその手を取って、奏介の顔を覗き込んだ。
彼は私の視線から逃げるように、つーっと目を横に流してしまう。


「ねえ、奏……」

「……約束してくれ、七瀬。俺の兄貴だからって、油断しないって」


奏介に言われた『約束』に戸惑い、瞬きをする私に、彼が再び目線を合わせる。


「俺の留守中に、男を家に上げるのは感心しない」

「……! 男って。藤悟さんは、お義兄さんだよ?」

「男には違いない」


少しゆっくりした口調で言い含められて、私は言葉に詰まって俯いた。
口ごもる私の前で、奏介は額に手を当て、「はあ」と声に出して深い息を吐く。


「……非常に悔しいが、七瀬、君の言う通りだ。俺が教えると約束したが、ちょっと……時間が取れそうにない」


奏介の低い声に導かれ、私はおずおずと顔を上げた。


「この間の控訴審。昨夜、原告代理人から『上告の手続きを進める』と連絡があったそうなんだ。昨夜から、対応に追われてる」

「……え?」


いつも朗々と語る彼が、どこか歯切れ悪く私に告げる。


「次の法廷は最高裁になる。そこまで持ち込もうとするくらいだから、勝算あってのことだろう。こちらも、全力で防衛しなければならない」

「え、っと……それって、つまり」


私は無意識に胸元を握りしめながら、たどたどしく呟いた。
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